Entries from 2019-01-01 to 1 year
涼しい夜風が比叡から降りてきて、センチメンタルな心のすぐ横をかすめていく。うだるような暑さはとうに消え去り、柔らかな月の光の中で秋の空気はただ凛としている。 夏を生き延びたのだ、と思う。 全てが終わったわけではないけれど。 自販機にジャリ銭を…
今日ばかりはゆったりとした時間が流れているというのに、僕は少し疲れていた。白く堅いパラマウントベッドに横たわったまま、静かに、静かに目を閉じる。これまでの過去と、これからの未来を想う。瞼の内側で涙が溢れる。シーツに零さぬよう、強く瞑る。 血…
君は遅れてやって来た。 社用車のトヨタ・アクアを実にスムーズなバックで壁ギリギリに停めると、「ごめんな、仕事が」と謝った。それから君は「懐かしいな」と呟いた。「いらっしゃい、みんなもう書き終わったで」、僕はそう言って庭先の門扉を開け、彼を我…
今年も高野川が薄紅に色付く。時折強い風に吹かれて桜吹雪が舞う。美しい、しかし人々はさもそれが当然であるかのように通り過ぎてゆく。見えているのだ、しかし見てはいない。マツダRX-8のロータリー・エンジンは不満げなアイドリングで低い回転数を維持し…
小さくクシャミをする。この世の全てが寝静まる冬の早暁、空はほんのり青い、微かに粉雪が舞う。 缶コーヒー片手に震えるようにして吐く息は白い。溜息をついても美しいのは皮肉なものである。掌に降り落ちた雪を包むと、間も無くほどけて肌の一部になった。…